【5月】 東京荒川 雑草だより (北千住から堀切駅)


「路地裏寺子屋」

 日を改めて、前編の続きは隅田川に架かる千住大橋から始めます。ここは、松尾芭蕉が奥の細道に旅立つ出発点とされているのですが、川の左岸は足立区、右岸は荒川区で、船で隅田川を遡上(さかのぼ)ってきた芭蕉がどちらの岸に降り立ったのか、地元では小さな論争に成っています。

 「行春(ゆくはる)や鳥啼(な)き魚の目は泪(なみだ)」。矢立初めの句碑は右岸と左岸の両方にありますが、大概(たいがい)こういった代物は云った者勝ちで、積極的にロビン活動を努めた側が有利です。

 ところで右岸と左岸は、生活物資を積んで遡上してくる船を、橋の上から手を振って待っている人の目線で表現します。これは英語やフランス語でも同様で、たまたまとは思えず、きっと外国から入ってきた概念ではないかと想像します。もうひとつ紛らわしいのが堤防の内と外で、浮浪者でもない限り、自分たちの暮らしている方が内側です。

 今日の目的の一つが古民家カフェで、目指すお店は「路地裏寺子屋 rojicoya 」。北千住駅東口を出ると東京電機大学の綺麗なキャンパスがあり、その先の小さな路地にお店はあります。ここは、古い家屋をリノベーションした小さなお店で、日本茶が専門のカフェでした。


【春限定】はるセット

 お勧めは春限定の「はるセット」で、桜茶と八重桜の花の塩漬けが添えられたどら焼きのセットです。桜茶といっても桜を使う訳ではなく、ほのかに桜の香りを感ずる緑茶とのことでした。しかしながら、お茶の香りの世界はとてつもなく繊細で、花粉症で詰まった鼻には少しも違いが分かりません。

 お店を出たら、東京電機大学の校舎の間を抜ける電大通りと大踏切通りを通って荒川土手に向かいます。 そこから河川敷の自転車道を500m程下って、東武伊勢崎線 堀切駅までやってきました。

 この駅は、正面を荒川土手、横を旧綾瀬川、背面を東京未来大学の塀に遮(さえぎ)られていて、駅前には商店を構えるスペースもありません。そもそも堀切とは荒川を挟んだ対岸の地名で、荒川放水路掘削により駅だけが取り残されてしまったような不思議な立地です。

 荒川土手には、なだらかな草原が広がります。ここは3年B組金八先生のロケ地だった場所で、教室は堀切駅の背後にあった足立区立第二中学校(現在は、東京未来大学)が使われていたようです。


東武伊勢崎線 堀切駅

 この時期は、シロツメクサの白い花が土手一面を覆います。土手に仰向けになって5月の青い空を見上げれば、花冠(はなかんむり)を作って遊んだ子供の頃の記憶が蘇ります。男の子同士では、相手の持っている花を花ではじいて勝ち負けを競う遊びもやりました。

 堀切駅を出発した上り電車は荒川土手に沿って800m程まっすぐ進み、鐘ヶ淵駅手前で大きく右にカーブします。ここは東武電車のとっておきの撮影スポットで、土手の上から特急リバティやスペーシアの雄姿が撮影できます。

前編 中編 後編

(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
ついでに、他の「沖縄花だより」「紀行・探訪記」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。