「東京・下町自転車」 (江戸川区平井:後編)

小松川千本桜

 東京都江戸川区平井はこれといって特色の無いところ、JR総武線の錦糸町・亀戸と新小岩の間に挟まれて、その存在感は僅かです。 私が育った山形県もそうでした。東北六県といえば、青森・秋田・岩手・宮城・福島、そして新潟であると思っている人が多数を占め、たとえ「さくらんぼ」や「ラ・フランス」、「米沢牛」などで山形を知る人でも、日本海に面していることを知っている人は僅かです。

 ちなみに全国の中学生を対象とした都道府県知名度で、認知度が低いのは島根県や徳島県も一緒。栃木と群馬では相互の位置関係がみなさん曖昧で、さらに茨城県に至っては、「いばらけん」と濁音なしに正しく発音できる人は殆んどいません。 一方、青森や岩手の認知度が高いのは日本地図を北から学習していくからのようで、佐賀県についてはお笑い芸人「はなわ」の功績が大きかったと思います。[中学生の県名認知度]


カワセミ専用の島
 

 話を戻して平井・小松川エリア、ここは荒川と中川に取り囲まれた島国です。中川もかつては悪臭漂う殺風景なドブ川でしたが、上流と下流を水門で仕切り、河川の水位を下げ、護岸整備を行うことでとても快適な河川に生まれ変わりました。

 中川の中州にはカワセミ専用に作られた島があり、2014年4月5日朝日新聞にはカワセミがここで営巣を始めたという嬉しい記事が掲載されました。対岸には写真に収めようと、高級一眼ディジタルカメラを携(たずさ)えたカメラじじいで溢れています。この光景は正にパパラッチ、しかし当のカワセミも簡単には姿を見せません。

 周囲を飛んでいる頭の黒い怪しいカモメはユリカモメ。ユリカモメに抱くイメージは純白で可憐な鳥ですが、大気汚染で汚れて黒くなったのかと思いきや、夏毛のユリカモメは頭が黒いのが普通なのだそうです。

 全身真っ黒の大きな鳥はカワウ、結構泳ぎが上手な鳥で、一旦水中に潜ったらどこから顔を出すか分かりません。川の中には大きなボラも群れています。沿岸を緑色に覆っているのはアオサ。この川は満潮時に東京湾の海水が入り込み、多様な生態系を育む汽水域でした。


旧中川

小松川千本桜
 

 都営新宿線東大島駅付近の川べりには、最近になって川の駅と呼ばれる観光設備も出来ました。ここは、亀戸梅屋敷から発着する水陸両用車ダックツアーの水上スプラッシュポイントになっています。

 さらに休日ともなれば、カヌーを楽しむ人たちで川面は溢れ、北十間川を経由して東京スカイツリー真横まで行くカヌーツアーも開催されています。

 平井の東側には荒川のスーパー堤防が広がっていて、休日ともなればサイクリングやバーベキューを楽しむ家族連れで賑わいます。堤防には2kmに及び約1,000本の桜の木が植えられていて、桜の名所「小松川千本桜」になっています。

 この千本桜が圧巻なのは植付け面積の広さにあって、川沿いに一直線に植えられた桜並木とは全く規模が違います。

 スーパー堤防には、約24万uの大島小松川公園が隣接しています。 この公園は大規模災害を想定し、最初から20万人分の広域避難場所として建設されていて、興味深い仕組みがあちらこちらに隠されています。

 駐車場に整然と並んだマンホールもその一つ、蓋を開けて上に幌(ほろ)を付ければ臨時の水洗トイレになる仕組み。中川に掛けられた人専用の広い橋は江東区からの避難用。また、亀戸駅付近まで続く高速道路下の自転車道は他より一段高くなっていて、周辺地域が水没しても非難ルートが確保できるようになっています。

 さらに荒川には災害時専用の船着場があり、そこからを救援物資を満載したトラックが、一般道を介さず直接公園に到着できるよう整備されています。それ以外にも公園内には150万リットルの給水タンクや大量の食料が保管されているので、とりあえずここまでく来れば飢えは凌げることになっています。




前編 後編(今いる所)

(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
東京下町を探訪する他の記事(「東京・下町自転車」)や「沖縄花だより」「紀行・探訪記」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。