「東京・下町自転車」(浅草) 後編:神谷バーと缶詰バー

神谷バー

 観光気分を満喫したい向きには「神谷バー」。浅草1丁目1番地1号、吾妻橋交差点角にある創業明治13年の神谷バーと云えばキリリと冷えた「電気ブラン」。ビールをチェイサーにしてストレートで飲むのが最高なのだそうです。

 一階のバーフロアはいつ行っても多くの人で溢れていて、落ち着いて飲める雰囲気ではありません。しかし、ここは一介の観光客であると割り切って、心静かに目をつむり電気ブランをひとくち口に含みます。そうすれば、甘い大正ロマンの薫りとともに喉元が一気にしびれ、いにしえの文豪にでもなった豊かな気分が味わえます。

 一方、格安で興味深いお店は缶詰バー、食事メニューは「缶詰」というコンセプトのお店ですが、最近密かな広がりを見せているようです。その缶詰バー、日本全国にフランチャイズ展開している「mr.kanso」が浅草にもありました。

 場所はホッピー通りからまっすぐ雷門通りに向かう途中、間口一間ほどの小さなお店でとても落ち着く雰囲気です。食べたい缶詰を自分で棚から探してくるのが店のルール、缶詰と云えども侮(あなど)れず、たこ焼きから出汁巻き卵まで揃っています。このお店のマスターの拘(こだわ)りは焼酎と日本酒、カウンター奥の棚には見たことにない銘柄のお酒がずらりと並んでいて、常設メニューには載っていないとっておきのお酒がいっぱいです。

 今日一番のお奨めは、山口県岩国の銘酒「獺祭(だっさい)」。今年4月のオバマ大統領来日の際、安倍首相が手土産として送ったお酒だそうで、なかなか手に入らない幻の銘酒と云うことです。目の前に出されたビンのラベルには大きく「等外」の二文字が・・・聞けば規格外の山田錦で作ったお酒なのだということで、味は変わらず値段は特価、正規品以上に入手困難な一品なのだそうです。

 恐る恐るひと口頂けば、口の中にフルーティーな爽やかさが広がります。これは殆んど白ワインの感覚で、ワイングラスで出された理由がよく分かります。これに合わせるおつまみは、自然溢れる環境で育てられたアスパラです。浅草にいながら頭の中は、岩国市内を流れる清流錦川(にしきがわ)からの風そよぐ、日本三名橋「錦帯橋(きんたいきょう)の欄干に佇(たたず)んでいるような錯覚に襲われました。

 一緒になったお客は中高で野球をやっていたと言う地元の同級生三人組、ときどき一緒に飲みにくる仲間なのだそうです。流石(さすが)に「初音小路」で、朝から競馬新聞片手に飲んでいるおっさん達とは話題が違います。折も折、いまは2014年度AKB48 37thシングル選抜総選挙の真っ最中で、話を合わせるのも大変です。

 このお店、テーブルチャージはなしですが、席に座ればちょっとしたつまみ物を出してくれます。鰯(いわし)の缶詰を頼んだ時も、白い小皿に移し替えてくれた上、刻んだネギまでを添えてくれて、他所(よそ)の缶詰バーでは見られない心使いがいっぱいです。さらに特筆すべきはトイレの綺麗さ、ここであれば日頃から気になっている女性を誘っても好感度アップ間違いありません。

 ところで店内写真の一部は江東区門前仲町店のもの、適当な写真が見つからなかったために使ってみましたが、ネイチャーに投稿するような学術論文では無いのですから、このぐらいは大目に見て貰えるものと思います。


「神谷バー」

「mr.kanso」

メニューにないお酒



前編 中編 後編(この場所) 最後は三社祭りの様子です。

(このシリーズは、iPadで楽しめるように設計されています。喫茶店でお茶を飲みながら、ゆるりとした気分でお楽しみください。)
東京下町を探訪する他の記事(「東京・下町自転車」)や「沖縄花だより」「紀行・探訪記」「真樹のなかゆくい」へも、是非訪づれてください。